笑ったときやくしゃみをしたときに下着がぬれる人もいれば、トイレのドアの前でがまんできずに漏れてしまう人もいます。どちらも「尿失禁」と呼びますが、漏れる理由が違うため、効果が期待できる治療の順番も異なります。そのため診療は、どんな瞬間に漏れるのかを見分けるところから始まります。漏れた状況を数日間書き留めていれば、その記録がこの過程でいちばんの手がかりになります。

尿失禁にはどんな種類がありますか?
女性の尿失禁は大きく、腹圧性、切迫性、そして両方がある混合性に分けられます。 どれに当たるかによって体の中で起きている変化が違うため、治療の最初の段階も変わります。
| 種類 | 尿が漏れる瞬間 | 主に関係する変化 | 治療の出発点 |
|---|---|---|---|
| 腹圧性尿失禁 | 咳・くしゃみ・笑い、走ったり重い物を持ったりするなど、おなかに力が入る瞬間 | 出産や加齢などで、尿道を支える骨盤底の筋肉や組織が弱くなる | 骨盤底筋トレーニング、体重管理 |
| 切迫性尿失禁 | 急に強い尿意が来て、トイレに間に合わない | 膀胱がいっぱいになる前に勝手に収縮する過活動膀胱 | 膀胱訓練、カフェインの調整、必要に応じて薬 |
| 混合性尿失禁 | 上の両方の状況 | 両方の変化が同時にある | よりつらいほうから、両方の方法を組み合わせて |
女性でいちばん多いのは腹圧性尿失禁で、腹圧性尿失禁のある人の中には、急な尿意の症状もあわせて持つ人が少なくありません。まれに、膀胱がうまく空にならず、あふれるように少しずつ漏れることもあります。この場合は尿を出すほうの問題を先に調べる必要があるため、対応がまったく異なります。尿の勢いが弱く、出し終えたあとも残っている感じが続くなら、受診時に必ず伝えてください。
診療ではどんなことを確認しますか?
多くの場合、問診・診察・排尿日誌・尿検査で種類を見分け、残尿測定や尿流動態検査は必要なときだけ加えます。 最初からすべての検査を受けるわけではありません。
- 問診 いつ、どんな状況で漏れるのか、日常でどのくらい困っているのかをお聞きします。出産や手術の経験、閉経しているかどうか、服用中の薬も、原因や治療の選び方に関わります。
- 診察 内診で膀胱や子宮が下がっていないかを見て、骨盤底の筋肉を正しく締められるかを確認します。膀胱に尿がたまった状態で、咳をしたときに漏れるかを直接確かめることもあります。
- 排尿日誌 排尿した時刻と量、漏れたときの状況、飲んだものを記録します。英国国立医療技術評価機構(NICE)は、仕事の日と休みの日の両方が入るよう、最低3日間記録することを勧めています。
- 尿検査 血液・糖・炎症のサインを確認します。膀胱炎などの感染でも急な尿意が起こることがあるため、尿失禁の治療より先に確認します。
- 残尿測定 排尿した直後に膀胱に残っている量を、主に超音波で測ります。排尿がしにくい場合や、膀胱炎を繰り返す場合に確認します。
- 尿流動態検査 細い管で膀胱に液体を入れながら、膀胱と尿道の圧力の変化を測ります。種類がはっきりしないとき、急な尿意が目立つ混合性のとき、排尿困難があるとき、尿失禁の手術を受けたことがあるときに、手術の前に検討します。
腹圧性尿失禁はどう治療しますか?
最初の治療は骨盤底筋トレーニングです。 NICEは、専門家の指導のもとで最低3か月間、毎日3回以上、毎回8回以上筋肉を締めるトレーニングを勧めています。効果があれば、その後も続けます。
このトレーニングでは、正しい筋肉を使うことが要です。お尻や太もも、おなかに力を入れたり、息を止めたりしながら繰り返すと、肝心の尿道を支える筋肉はほとんど動いていないことがあります。そのため、始める前に診察で骨盤底の筋肉が正しく収縮しているかを確認します。
- 体重管理: BMI(体格指数)が30を超えている場合は、体重を減らすだけでもおなかにかかる圧力が減り、症状の改善につながることがあります。
- 便秘・咳の管理: おなかに力を入れることが繰り返されると症状が悪化しやすいため、あわせて対処します。
- 電気刺激・バイオフィードバック: 自分で筋肉を締めるのが難しい場合に、収縮のしかたを身につけ、トレーニングを続けられるよう助ける補助的な方法です。すべての人に基本として追加するものではありません。
- 薬: 腹圧性尿失禁に使える薬は効果が部分的で、副作用の負担もあるため、最初の治療としては使いません。
切迫性尿失禁はどう治療しますか?
膀胱訓練と生活の見直しが先で、それで十分でなければ薬を加えます。 NICEは、膀胱訓練を最低6週間試すことを勧めています。
膀胱訓練は、排尿日誌をもとにトイレに行く間隔を少しずつ延ばしていく練習です。急な尿意が来たときにすぐ駆け込まず、その感覚を落ち着かせる方法もあわせて身につけます。コーヒーや緑茶などカフェインを含む飲み物を減らしてみて、水分は一律に減らすのではなく、多すぎたり少なすぎたりしていないかを記録で確かめながら調整します。飲みすぎても、控えすぎても、不快感が強くなることがあるためです。
薬は、膀胱の急な収縮を抑える抗コリン薬やβ3作動薬を主に使います。効果を判断するには少なくとも4週間は飲んでみる必要があり、口の渇きや便秘などの副作用が出ることがあります。抗コリン薬を長く飲んだときの認知機能への影響はまだはっきりしていないため、年齢や一緒に飲んでいる薬、緑内障や残尿などの状態を確認して選びます。閉経後の腟の乾燥といった変化もある場合は、腟に使う女性ホルモン剤を検討することもあります。
薬でも抑えられない場合は、膀胱の壁にボツリヌス毒素を注射する治療や、仙骨神経を刺激する治療を専門の医療機関で検討できます。ボツリヌス毒素の注射後は膀胱を空にしきれず、自分で細い管を入れて尿を出す必要が生じることがあるため、その可能性まで説明を受けてから決めます。
混合性尿失禁は何から治療しますか?
よりつらい症状から治療し、骨盤底筋トレーニングと膀胱訓練を同時に始めることが多くあります。 排尿日誌で「咳をして漏れた回数」と「急な尿意で漏れた回数」を分けてみると、どちらが大きな問題なのかが比較的はっきりします。
腹圧性の症状のほうが大きくても、先に手術をするのではなく、手術以外の治療と過活動膀胱の薬の効果をまず相談するようNICEは勧めています。尿道を支える手術は咳をしたときの漏れに対する治療なので、急な尿意は手術後も残ることがあり、まれに新たに出たり強くなったりすることもあります。そのため、急な尿意のほうが大きい、あるいは種類がはっきりしない混合性では、手術の前に尿流動態検査で膀胱の状態を確認します。
尿失禁の手術はいつ検討し、何を知っておくべきでしょうか?
尿失禁の手術は主に、腹圧性尿失禁、または腹圧性が大きい混合性尿失禁で、手術以外の治療では十分に良くならず、生活への支障が大きいときに検討します。 症状の程度とあわせて、本人が日常でどれほど困っているか、何を期待しているかが判断の大事な要素になります。
もっとも広く行われている方法は中部尿道スリング手術です。腟の内側の小さな切開から、尿道の中ほどの下に合成テープを入れ、咳をしたときに尿道が支えられるようにする手術です。テープを通す経路によって、恥骨の裏側を通す方法、太ももの内側の方向へ通す方法、切開一か所で行う短いテープの方法があります。ほかにも、自分の筋膜で作るスリング、膀胱頸部を持ち上げて固定する手術、尿道の壁に物質を注入する方法があります。注入する方法は負担が少ない一方、効果が比較的低く、時間とともに弱まるため、注入を繰り返す必要が出ることがあります。
今後妊娠の予定があれば、事前にお伝えください。妊娠や出産が手術の結果に影響することがあるため、時期を一緒に考えます。手術後はまず尿がきちんと出るかを確認し、6か月以内に改めて診察して、残っている症状とテープの状態を確かめます。手術後に尿がまったく出ない、痛みがどんどん強くなる、熱が出るといった場合は、手術を受けた医療機関にすぐ連絡してください。
レーザーや理学療法などの手術以外の施術は、どこに位置づけられますか?
骨盤底筋トレーニングや生活の見直しの代わりになる治療ではなく、種類と症状を確認したうえで一緒に検討する選択肢です。 LILEAPでは、尿失禁の緩和を目的とした理学療法とレーザー治療のご相談を承っており、まずどの種類の尿失禁かを確認してから、適しているかどうかをお話しします。
ただし、腟レーザーが腹圧性尿失禁にもたらす効果については、まだ根拠が十分ではありません。NICEは、短期的にはっきりした安全上の問題は報告されていないものの、長期的な効果と安全性の根拠は質・量ともに不十分だとして、研究の範囲内で使うよう勧めています。レーザー施術とテープを入れる手術は仕組みの異なる治療なので、施術を考えている場合は、期待できる変化と限界、ほかの選択肢をあわせて説明を受けてください。
尿に血が混じる、排尿のときに痛む、尿が出にくいといった場合は、尿失禁だけと考えず、まず受診してください。漏れる瞬間の見分け方は尿失禁の症状と診断、トレーニング・訓練・薬の役割は尿失禁の非手術治療、手術の前に確認したい内容は尿失禁の手術治療にまとめています。急な尿意が痛みとともに出てきた場合は、膀胱炎かどうかを見ていく記事と膀胱炎を繰り返すときに確認することもあわせてお読みください。
